空気中のラドンが増えると肺がんの発生確率も増加する
肺がんは呼吸によって取り込まれたラドンからの放出されるα線が放射線に弱い肺の細胞に当たってしまうことによって発生すると解説しましたが、がんの発生には確率が絡むため、周囲のラドン濃度が低ければ肺がんの発生確率は低下し、逆にラドン濃度が高くなればなるほど発生確率が上昇していきます。このことはかつて鉱山で働いていた労働者たちの間で、地下の密閉空間における高濃度ラドンによって肺がん死亡者が多発していたという事実から国際社会では古くから知られていました。
国際的な評価基準として、放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)という国際会議が2008年に行われた際、世界中の鉱山内部ラドン濃度と鉱山労働者の肺がん死者数を精密に調査したところ、人口1億人あたり毎年6,300人もの方がラドン由来のがんで亡くなっていると評価されるようになりました。そして「近年、エアコン普及によって建物内の気密性が向上し、空気よりも重いラドンが室内の底部に蓄積し、それによって人へのラドン被曝が増加している」という指摘も出されたのです。
その指摘を受けて世界保健機関(WHO)は翌年の2009年に「人の立ち入る建物内のラドン濃度を測定し、一定の濃度を超えるようなら対策を講じよ」という勧告を出しました。
上のグラフは主要国(G7)における肺がん死者数の年代推移です。
屋内ラドンの危険性を示すWHOの勧告を受けて各国政府は国内の建物のラドン濃度を調査し、必要であればラドン濃度を下げる対策を行うようにしました。結果として日本を除く各国の肺がん死者数は明らかな減少ないし減少傾向に転じており、ラドン対策の有効性は国際社会で認められています。
しかし、主要国の中で日本の肺がん死者数だけが今なお増加し続けています。本ホームページをご覧になっている皆様に関しても、ご自宅のラドン濃度を測ることやラドン対策を行うことについて聞いたことのない方がほとんどだと思います。詳しくは下記のページにて解説しますが、様々な事情が絡んで日本のラドン対策が遅れてしまっているのです。
どんなに医療が発達してがんの治療が出来るようになったとしても、そもそもがんにならないように予防する以上の対策はありません。肺がん発生の原因となるラドンは常に存在している事実を考えれば、身の回りの空気の中にラドンがどのくらい含まれているかを把握し、少しでもラドンによる影響を少なくして肺がんの発生率を抑える対策を行うことは、今後の肺がん予防において極めて有効となります。