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霧箱によるラドン濃度測定方法 ~高感度なα線測定器~

我々の周りには様々な自然放射線が降り注いでいます。10cm×10cmの面を宇宙線のμ粒子は毎分600個通過しますが、ラドンからのα線は毎分0.1個程度しか通過しません。またタリウムが出すγ線から発生する散乱電子もμ粒子と同程度存在します。

ラドンの濃度を測定する方法はラドンから放出されるα線を測定することだけです。ラドンが出すα線の測定器に求められる性能は、α線に対して十分な感度があるだけでは不十分で、他の放射線に対する感度が非常に小さく、α線と明確に区別することが必要不可欠です。これを満たすα線の測定方法は、写真フィルム、ZnS(ヨウ化亜鉛)シンチレータという特殊な物質を使った光測定器、霧箱の3種類です。弊社では3種類とも試作した結果「霧箱」を採用することにしました。将来的にはZnS(ヨウ化亜鉛)シンチレータ測定器の仕様も視野に入れています。

霧箱は19世紀末に発明された放射線測定器であり、1950年代までは第一線の研究に使用されていました。しかしエネルギーの大きさや時間を測定できず他の測定器と一緒に併用できないため、最近では教科書に載っているだけで実際の研究には使われていません。そのような古典的な測定器と言える霧箱ですが、α線に対する感度は非常に敏感であり、有効体積内なら空気中のラドンが出すα線はほぼ100%測定できるのに加え、他の放射線とも明確に区別できるという長所があります。また材料さえ揃えられれば小学生や中学生でも作ることの出来る工作難易度の低さも魅力的です。

まず最初に霧箱の測定原理についてお話しします。

上空まで良く晴れた日では飛行機雲ができることがあります。地表が暖められ、地表付近の空気の温度が上がって膨張し、上昇を始めます。上空では気温が下がるので湿度が上昇し、ある高度で湿度100%になります。湿度が100%を超えてもきっかけがないと雲ができません。上空では湿度が100%を超えた、過飽和の水蒸気を含んだ空気となります。ここに航空機が飛ぶと、エンジンから排出される化学物質が種になって雲ができます。霧箱ではエタノール蒸気の過飽和状態を作り、その中を放射線が走ると放射線によって空気分子がイオンになり、そのイオンが種になってエタノールの雲ができます。この雲を視覚的に捉えることでラドンから飛び出てきたα線の数を数えていきます。

図1:弊社が使用している霧箱測定器

図2:霧箱の概略図(簡単のため一部省略しております)

図1、図2は弊社が使用している霧箱です。材料は誰でも手に入るものを選びました。

霧箱本体はポリエチレン製の直方体容器(15cm×20cm×10cm)の底を抜いたものを用いて、容器の内面に5mmほど隙間を開けて黒い厚紙を立てています。霧箱の下のアルミトレーにはエタノールが、さらにその下の大きなアルミトレーにはイソプロパノールが入っており、イソプロパノールはドライアイスで−40度に冷やします。霧箱の上面は家庭用ラップのうちのポリメチルペンテンラップを幅広のゴムバンドで止めています。

霧箱内の同じ高さでは中央部よりも周辺部が高音なため、霧箱内の空気は周辺部で上昇し、上面で中央に集まって、中央部を下降し、底で周辺部に広がるという対流をします。エタノールは黒い紙の中を毛細管現象で上昇しているうちに気化し、エタノール蒸気が空気の対流に乗って霧箱中央部を下降している中で過飽和状態になります。

図3:試料採集用空気ポンプと風船

図3は測定対象となる空気を風船に充填しているところで、市販されている最も小さな空気ポンプ(模型塗装用エアコンプレッサー)を使います。約3分で10ℓ程度の空気が風船の中に集まります。

図4:試料空気への置き換え

図5:照明を落として霧箱を撮影

図6(動画):霧箱内の様子

図4は霧箱に風船を繋いで霧箱内部の空気を採取した空気に置き換えている様子であり、図5は部屋の照明を落とし、卓上ライトのみで照らした霧箱を霧箱の上に固定したカメラで撮影し、α線を測定している様子です。図6はその時の霧箱内の様子を動画で撮影したものです。

図7:代表的なα線

図8:図7の1秒後

図9:代表的な宇宙線(μ粒子)

図7は代表的なα線の写真であり、図8は図7から1秒後の写真、図9は代表的な宇宙線のμ粒子の写真です。図7と図9では明らかに軌跡の太さや長さが異なります。α線の場合は太く短く、宇宙線の場合は細く長いものになります。さらにα線の軌跡ならほぼ3秒後まで痕跡が残りますが、宇宙線やβ線は1秒程度で軌跡が消えてしまいます。

これらの違いにより、霧箱はα線とそれ以外放射線を容易に識別することが可能となります。

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