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電荷を持たない粒子が原子核に衝突して起きる「核分裂」 |
電荷を持たない粒子が原子核に衝突して起きる「核分裂」
原爆や現在実用化している全ての原子力発電は、ウラン235など非常に重い元素が引き起こす核分裂という現象を利用しています。
ウランを始めとする鉛より重い原子核はそのどれもがエネルギー的に不安定な元素であり、大抵の場合はα線などの放射線を放出して軽くなることによってより安定な状態になろうとします。しかし中にはα線のような小さなかけらを放出するのでなく、電荷を持たない粒子が重い原子核に衝突して2つに割れたり、あるいは自発的に2つに割れたりしてしまう原子核もあります。この原子核が2つに割れる反応のことを核分裂反応と呼び、粒子の衝突によって割れることを誘導核分裂、自発的に割れることを自発核分裂と呼びます。また原子核を割ることの出来る電荷を持たない粒子はγ線と中性子だけであることから、誘導核分裂はさらにγ線誘導核分裂と中性子誘導核分裂の2つに分類できます。
原爆や原子力発電において特に重要となる核分裂は、原子核に中性子を連鎖的に衝突させる中性子誘導核分裂の方であり、この中性子誘導核分裂を引き起こす物質のことを特に核分裂性物質と言います。
ウラン235による「核分裂」
核分裂性物質の中で人類の主要エネルギー源になり得るほど豊富な原料があるのは、ウラン233・ウラン235・プルトニウム239の3種類です。ウラン235は天然ウランの中に0.7%ほど含まれているのに対し、ウラン233とプルトニウム239は自然界には存在しないものの、原子炉の中でトリウム232とウラン238に中性子を吸収させてその後β崩壊を2回行わせることによって生成されます。
原子力発電の中核を成す原子炉は燃料の違いで3種類に分けられますが、このページでは現在主流となっているウラン235の原子炉について説明します。
ウラン235は中性子を吸収するとウラン236の励起状態(エネルギー的に活性化した状態)になります。このこの励起状態のウラン236のうち、18%はγ線を放出して半減期2,300年の比較的安定的なウラン236に変わり、残りの82%は二つの原子核に分裂します。
核分裂性物質の原子核が核分裂を起こした後に生成される2つの核種のことを核分裂生成物(核分裂片とも)と呼びます。分裂するときに原子核はより安定した状態になろうとすることから、真っ二つに2等分になることはなく、大抵の場合は質量数140程度の核と95程度の核を基本とした、いくつかの組み合わせで分裂することが多くなります。
核分裂生成物の組み合わせにはその核の安定度が関わっており、化学の分野では原子番号2、10、18、36、54、86、118の原子核が安定原子(不活性ガス)と言われていますが、放射線物理学の分野では原子核が特に安定となる中性子数や陽子数があり、その数は2、8、20、28、50、82、126と言われています。これらの数のことを魔法数と呼び、代表的な原子核はヘリウム4(中性子数2陽子数2)、酸素16(中性子数8陽子数8)、カルシウム40(中性子数20陽子数20)、カルシウム48(中性子数28陽子数20)、鉛208(中性子数126陽子数82)などが挙げられ、それらは陽子数も中性子数ともに安定した二重安定核です。例外的に中性子数82陽子数50のスズ132も二重安定核ですが、陽子に比べて中性子が多すぎて不安定となります。
ウラン236が核分裂した時、分裂によって生じる2つの原子核のうちの片方は陽子数50中性子数82(スズ132)に近い核になるのですが、分裂前のウラン236原子核における中性子数と陽子数の比率が144÷92=1.565だったのに比べ、スズ132の場合だと82÷50=1.64となり陽子に比べて中性子が多すぎて不安定な核なり成立しません。そこでより安定的な原子核として分裂しようとします。その一例として中性子数82陽子数52(82÷52=1.577)のテルル134として生まれることになり、この時の相手核は陽子数40中性子数62のジルコニウム102となります。
核分裂で生まれた2個の原子核はいずれも中性子過剰核です。そのため核分裂で生まれた原子核は最初に中性子放出反応を行います。この時放出される中性子の数は不定ですが、平均ではおおよそ2.5個の中性子が放出されます。ここでは中性子数82陽子数52の原子核は中性子放出を1回行って中性子数81陽子数52に変わり、中性子数62陽子数40の原子核は中性子放出を2回行って中性子数60陽子数40に変わるものとします。この中性子放出反応は核分裂から1ミリ秒以内に起きます。
中性子放出後の原子核はまだ中性子が多すぎて不安定核であるため、この後β崩壊を数回行って安定核または寿命の長い核になりろうとします。ここではどちらの核もβ崩壊を2回行うとしましょう。すると一方は陽子数54中性子数79のキセノン133に変わり、他方は陽子数42中性子数58のモリブデン100に変わります。β崩壊は発熱反応ですが、半減期は1秒以下から百万年以上とさまざま速度で進行していきます。
ここではウラン235について解説しましたが、ウラン233やプルトニウム238でも同様の反応が起こります。これらの原子核は中性子を吸収すると2つの原子核に分裂し、それぞれが平均1.25個ずつ中性子を放出し、数回β崩壊を行って安定核になりろうとします。すなわち中性子を1個吸収し2.5個放出します。この放出された中性子のうち1個以上が次の核分裂を行えば、核分裂はずっと続きます。これを連鎖反応と言い、この連鎖反応を継続している状態のことを臨界状態(または単に臨界)と呼びます。この連鎖反応によって核分裂反応で発生するエネルギーが次々と生み出されて膨大なものとなり、その大きさは同じ重さの石炭や石油の燃焼によって発生するエネルギーのおよそ百万倍に達します。
このように連鎖的に発生する核分裂のエネルギーを一気に開放して対象を破壊するのが原爆であり、核分裂の連鎖反応を制御し、安定的に核分裂で生じた熱エネルギーを電気エネルギーに変換するのが原子力発電の基礎原理です。