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原子力発電について

目次
電荷を持たない粒子が原子核に衝突して起きる「核分裂」

ウラン235による「核分裂」

「減速材」と「冷却材」で見る原子炉の種類

 ①重水炉

 ②黒鉛炉

 ③軽水炉

ウラン235原子炉の現状について

放射線、とりわけ原子力と聞くと多くの方が原子力発電を連想されるかと思います。

20代以上の方であれば2011年の東日本大震災による津波を発端とした福島第一原発事故の記憶は印象深いでしょうし、10代以下の方でもその後の廃炉作業や汚染処理水関連の情報はいまだにニュースを賑わせていることをご存じでしょう。日本各地では一度止めてしまった原子炉を再稼働させようしたり、新しい原子炉を建設したりする動きが着々と進んでいます。

ここでは私たちの生活において重大なインフラの一角を担う、現在主流となっているウラン235を燃料とした原子力発電の動作原理や種類について、簡単に説明していきます。

電荷を持たない粒子が原子核に衝突して起きる「核分裂」

現在実用化している原子力発電は全て、ウラン235など非常に重い元素が引き起こす核分裂かくぶんれつという現象を利用して電力を発生させています。

ウランを始めとする鉛より重い原子核はそのどれもがエネルギー的に不安定な元素であり、大抵の場合はα線などの放射線を放出して軽くなることによってより安定な状態になろうとします。しかし中にはα線のような小さなかけらを放出するのでなく、電荷を持たない粒子が重い原子核に衝突して2つに割れたり、あるいは自発的に2つに割れたりしてしまう原子核もあります。この原子核が2つに割れる反応のことを核分裂反応と呼び、粒子の衝突によって割れることを誘導核分裂、自発的に割れることを自発核分裂と呼びます。また原子核を割ることの出来る電荷を持たない粒子はγ線と中性子だけであることから、誘導核分裂はさらにγ線誘導核分裂中性子誘導核分裂の2つに分類できます。

原子力発電において特に重要となる核分裂は、原子核に中性子を連鎖的に衝突させる中性子誘導核分裂の方となります。

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ウラン235による「核分裂」

中性子誘導核分裂を起こす原子核の中で人類の主要エネルギー源になり得るほど豊富な原料があるのは、ウラン233・ウラン235・プルトニウム239の3種類です。ウラン235は天然ウランの中に0.7%ほど含まれているのに対し、ウラン233とプルトニウム239は自然界には存在しないものの、原子炉の中でトリウム232とウラン238に中性子を吸収させてその後β崩壊を2回行わせることによって生成されます。

原子力発電の中核を成す原子炉は燃料の違いで3種類に分けられますが、このページでは現在主流となっているウラン235の原子炉について説明します。
ウラン235は中性子を吸収するとウラン236の励起状態(エネルギー的に活性化した状態)になります。このこの励起状態のウラン236のうち、18%はγ線を放出して半減期2,300年の比較的安定的なウラン236に変わり、残りの82%は二つの原子核に分裂します。

原子核が核分裂を起こした後に生成される2つの核種のことを核分裂生成物(核分裂片とも)と呼びます。分裂するときに原子核はより安定した状態になろうとすることから、真っ二つに2等分になることはなく、大抵の場合は質量数140程度の核と95程度の核を基本とした、いくつかの組み合わせで分裂することが多くなります。

核分裂生成物の組み合わせにはその核の安定度が関わっており、化学の分野では原子番号2、10、18、36、54、86、118の原子核が安定原子(不活性ガス)と言われていますが、放射線物理学の分野では原子核が特に安定となる中性子数や陽子数があり、その数は2、8、20、28、50、82、126と言われています。これらの数のことを魔法数まほうすうと呼び、代表的な原子核はヘリウム4(中性子数2陽子数2)、酸素16(中性子数8陽子数8)、カルシウム40(中性子数20陽子数20)、カルシウム48(中性子数28陽子数20)、鉛208(中性子数126陽子数82)などが挙げられ、それらは陽子数も中性子数ともに安定した二重安定核です。例外的に中性子数82陽子数50のスズ132も二重安定核ですが、陽子に比べて中性子が多すぎて不安定となります。

ウラン236が核分裂した時、分裂によって生じる2つの原子核のうちの片方は陽子数50中性子数82(スズ132)に近い核になるのですが、分裂前のウラン236原子核における中性子数と陽子数の比率が144÷92=1.565だったのに比べ、スズ132の場合だと82÷50=1.64となり陽子に比べて中性子が多すぎて不安定な核なり成立しません。そこでより安定的な原子核として分裂しようとします。その一例として中性子数82陽子数52(82÷52=1.577)のテルル134として生まれることになり、この時の相手核は陽子数40中性子数62のジルコニウム102となります。

核分裂で生まれた2個の原子核はいずれも中性子過剰核です。そのため核分裂で生まれた原子核は最初に中性子放出反応を行います。この時放出される中性子の数は不定ですが、平均ではおおよそ2.5個の中性子が放出されます。ここでは中性子数82陽子数52の原子核は中性子放出を1回行って中性子数81陽子数52に変わり、中性子数62陽子数40の原子核は中性子放出を2回行って中性子数60陽子数40に変わるものとします。この中性子放出反応は核分裂から1ミリ秒以内に起きます。

中性子放出後の原子核はまだ中性子が多すぎて不安定核であるため、この後β崩壊を数回行って安定核または寿命の長い核になりろうとします。ここではどちらの核もβ崩壊を2回行うとしましょう。すると一方は陽子数54中性子数79のキセノン133に変わり、他方は陽子数42中性子数58のモリブデン100に変わります。β崩壊は発熱反応ですが、半減期は1秒以下から百万年以上とさまざま速度で進行していきます。

ここではウラン235について解説しましたが、ウラン233やプルトニウム238でも同様の反応が起こります。これらの原子核は中性子を吸収すると2つの原子核に分裂し、それぞれが平均1.25個ずつ中性子を放出し、数回β崩壊を行って安定核になりろうとします。すなわち中性子を1個吸収し2.5個放出します。この放出された中性子のうち1個以上が次の核分裂を行えば、核分裂はずっと続きます。これを連鎖反応と言います。この連鎖反応によって核分裂反応で発生するエネルギーが次々と生み出されて膨大なものとなり、その大きさは同じ重さの石炭や石油の燃焼によって発生するエネルギーのおよそ百万倍に達します。

このように連鎖的に発生する核分裂を制御し、安定的に核分裂で生じた熱エネルギーを電気エネルギーに変換する仕組みこそが原子力発電の原理です。

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「減速材」と「冷却材」で見る原子炉の種類

原子炉が安定に動くためには、燃料以外に3種類の物質が必要です。1つ目は発生した中性子の速度を燃料が最も吸収しやすい速さに下げるために必要な物質であり、これを減速材げんそくざいと言います。減速材という言葉から良く勘違いされがちですが、減速材は核分裂を促進する役割を果たすため、車のエンジンに例えればブレーキではなく「アクセル」に相当します。2つ目は原子炉で発生した熱エネルギーをタービンまで運ぶもので、原子炉から見ると原子炉を冷やす働きをするため、これを冷却材れいきゃくざいと言います。車のエンジンに例えれば「ガソリンの燃焼エネルギーをピストンやシリンダーによって駆動系の回転エネルギーに変換する仕組み」に当たります。最後の3つ目は熱中性子を強く吸収することによって、核分裂の連鎖反応を抑制するために物質で、棒状の成形したものを原子炉内に抜き差しして制御することから制御棒せいぎょぼうと言います。車のエンジンに例えれば「ブレーキ」に相当します。

原子炉を構成する減速材と冷却材と制御棒

役割 主に使われる物質
減速材 中性子の速度を燃料が最も吸収しやすい速さに下げる 重水・炭素・軽水
冷却材 原子炉で発生した熱エネルギーをタービンまで運ぶ 軽水・炭酸ガスなど
制御棒 熱中性子を吸収し、核分裂の連鎖反応を制御する ホウ素・カドミウム・ガドリニウム・水銀など

中性子放出反応で発生する中性子の速度は光速の6%程度で、それ以上の速度ではウラン235に衝突しても大部分が反射してしまいます。中性子が遅いほどウラン235に吸収されやすくなります。そこで中性子の運動エネルギーを原子炉内部の水分子の運動エネルギーと同程度にまで下げます。このような遅い中性子を熱中性子ねつちゅうせいしと言います。運動エネルギーを下げるには同程度の質量を持つ粒子と衝突させることが最も効果的です。

現在主流となっているウラン235を燃料とした原子炉は減速材の種類によって重水炉じゅうすいろ黒鉛炉こくえんろ軽水炉けいすいろの3種類に分類できます。

冷却材は炭酸ガスを使うこともありましたが、現代では重水炉だと重水を、黒鉛炉や軽水炉だと軽水を冷却水として使うことが多くなっています。冷却水の取り扱いによっても原子炉は2つに分類でき、原子炉で直接冷却材の水を沸騰させて水蒸気をタービンに送る沸騰水型ふっとうすいがたと加圧した原子炉内の冷却材の水(一次冷却水)を液体のまま原子炉の外に送って一次冷却水とは別経路の冷却材の水(二次冷却水)を間接的に沸騰させてその水蒸気をタービンに送る加圧水型かあつすいがたがあります。

制御棒の素材はどれも共通していてホウ素やカドミウムやガドリニウム、そして水銀といった熱中性子を強く吸収する物質が使用されています。

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①重水炉

重水炉は減速材に重水素(水素2、デュ―テリウム)原子2個と酸素原子1個が結合した重水を用いた原子炉です。

中性子とほぼ同じ質量の粒子は陽子であり、陽子1個を原子核とする水素を豊富に含む物質は水であることから、中性子の減速材だけとしては普通の水(軽水)が最適となります。ところが質量数1の水素原子が中性子を吸収して質量数2の重水素になってしまうことがあり、原子炉開発の初期においてこの確率を無視できませんでした。そこで水素1よりも高速中性子への原則能力は劣るものの、中性子吸収量が軽水よりも300分の1ほど小さい重水が減速材として必要になると考えられていました。

重水炉にはカナダが開発したCANDU炉のように減速材と一次冷却水に重水を使用した加圧重水炉のほか、かつて4基のみ存在した冷却材に炭酸ガスを使用するガス冷却重水炉などがあります。加圧重水炉の構造はこのあと解説する加圧水型軽水炉によく似た物となっています。

重水炉の利点として中性子吸収量の小さい減速材を使用しているため燃料として安価な天然ウラン利用できることと、このあと解説する軽水炉よりもウランからプルトニウムやトリウムを生産する効率が高いことが挙げられます。また副産物として重水素が中性子を吸収した三重水素(水素3、トリチウム)もわずかながらに生成することが出来ます。三重水素は水爆の原料になることで知られています。安価な天然ウランを燃料として利用できることはウラン資源の豊富な国にとって有利に働くことと言えますが、プルトニウムの生産効率が良いということはすなわちプルトニウム原爆の製造が容易になることを意味しています。

1934年にノルウェーにあるノルスク・ハイドロという企業が肥料生産の副産物として世界で初めて重水の商業生産を可能とする工場をヴェモルクという場所に建設しました。ところがその工場はその後の第二次世界大戦中の1940年4月にナチスドイツが行ったノルウェー侵攻によって接収されてしまったのです。

当時のナチスドイツはアメリカと同様に核兵器を開発しようとしており、原料となるプルトニウムを製造するための原子炉用に重水を作ろうとしていました。しかし数グラムの重水ならば簡単に作ることができたものの、数トンとなると非常に多くの遠心分離機による長期間の作業が必要でした。そのために必要な電力の量はバカにならず、ドイツ国内で行うことが出来ませんでした。そこでナチスドイツは比較的に電力の余っているノルウェーの重水工場に目を付けたのです。ノルウェー侵攻時、すでに生産されていた重水はフランスの諜報機関の手によって運び出されていましたけれども、工場の重水の生産能力は残っていました。

ナチスドイツはすぐさま核兵器開発のために重水生産を再開させましたが、イギリスやフランスといった連合軍はこの状況を見て黙ってはいません。およそ3年間に及ぶ破壊工作活動の末、イギリスで訓練されたノルウェー人の特殊部隊の手によって工場施設は破壊されました。ナチスドイツはかろうじて残っていた重水を本国に持ち帰ろうとしましたが、その輸送船もまたノルウェーの抵抗活動による攻撃を受けて沈没させられました。かくしてナチスドイツのよる核兵器開発計画は阻止され、その後の歴史は連合軍の勝利へと大きく傾いていったのです。

以上のように重水を作るには非常に巨額の費用が必要というデメリットがあることから、電力のような安いものを作って売っていたのでは採算が合いません。そこで現在において発電を主目的とした重水炉は存在せず、もっと高価な三重水素の製造をメインに置いた研究目的や水爆原料の作成目的のものが使われています。

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②黒鉛炉

減速材に炭素12を使用した原子炉を黒鉛炉と言います。

炭素12はほとんど中性子を吸収しないことに加え、当然炭素12は中性子の12倍の質量であるため1回の衝突で中性子の運動エネルギーは平均12/13になるだけに留るという特徴があります。水素を減速材とした場合と比べると一見効率が悪く、原子炉の直径で10倍、体積で1,000倍の巨大な原子炉が必要となります。しかしその反面、中性子が減らないことから、原子炉が巨大であっても連鎖反応は続きます。

黒鉛炉を使う主要目的として軍事用に原爆の材料となるプルトニウム239の生成することが挙げられます。黒鉛炉では原子炉の中央にウラン235の割合を3〜5%にした低濃縮ウランを、原子炉の周辺にウラン235の割合をできるだけ下げた劣化ウランを配置します。運転は摂氏100度以下で行われ、普段はふたを閉めません。熱水は全て捨てます。運転が継続すると劣化ウラン棒の中にプルトニウムが発生していくのに加えて、運転中に燃料棒や劣化ウラン棒を交換することも可能です。この特性から黒鉛炉は後述の軽水炉に比べて、原爆の原料となるプルトニウムを短時間かつ低コストで生成できます。

軍事用原子炉が進歩すると、核分裂で発生するエネルギーを民生用に使いたくなります。民生用黒鉛炉と軍事用黒鉛炉の違いは炉心の温度が異なることくらいで、軍事用は摂氏100度以下で運転しているのに対し、民生用は発電タービン用に水蒸気を発生させるために摂氏300度程度で運転しています。民生用黒鉛炉でもプルトニウムを軍事用と同じように作ることは可能です。このことからアメリカは原爆保有国が黒鉛炉を動かすことは黙認していても、原爆の非保有国が黒鉛炉を開発することは常に警戒しています。

黒鉛炉にはソビエト連邦(現ロシア)が開発し、歴史的な事故を引き起こしたチェルノブイリ原子力発電所にも使用された沸騰水型黒鉛炉(黒鉛減速沸騰軽水冷却炉)のほか、イギリスで開発され日本にも東海村に1基のみ建設されたガス冷却型黒鉛炉(黒鉛減速ガス冷却炉)などがあります。沸騰水型は冷却材に水を、ガス冷却型は冷却材に炭酸ガスを使用していました。

黒鉛炉の利点は他にも「減速材と冷却材が異なるため、炉心の温度を一定にしたまま熱出力を変化させる負荷追従運転が容易である」という点が挙げられます。炉心の温度を一定に保った状態であっても、冷却水の流量を増減させることによって発電量の大きさを簡単に調整することが出来るのです。負荷追従運転が可能であれば、時間ごとに変動する電力需要に対応して原子炉の出力を柔軟に調整できるというメリットがあります。また中性子の損失が少ないことから、このあとに解説する軽水炉に比べて燃料棒が長持ちするという特徴もあります。

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③軽水炉

第二次世界大戦後に普通の水を使った原子炉が実現可能であることが発見されました。原子炉内部には何らかの金属製の構造材やパイプが必要ですが、金属の中でジルコニウムは桁違いに中性子を吸収しないことがわかりました。ジルコニウム90の中性子吸収量は鉄56の1/260です。そこでこれまで鉄などを使っていた部品をジルコニウムに置き換えると、中性子を少し吸収してしまう普通の水(軽水)を冷却材に使っても連鎖反応が繋がることがわかりました。これを軽水炉と言います。現在日本国内に存在する原子力発電所の原子炉のほとんどがこの軽水炉に該当します。

軽水炉の最大の利点は小さいこと、狭いスペースで大量のエネルギーを生み出せることです。直径3m程度のものも建造可能であるため、潜水艦や空母などの船舶にも搭載できます。戦略ミサイル原子力潜水艦やその護衛の攻撃型原子力潜水艦は一度出航すると寄港まで潜航を続けることができ、現在の技術では原子炉だけが1年以上の潜航を実現できます。

水の臨界温度は374度であり、この温度を超えると水は液体と気体の区別がつかなくなる超臨界状態となることから、温度や圧力の制御が極めて困難になります。民生用軽水炉は炉心温度280度程度で原子炉内の水を沸騰させて水蒸気を作り、その水蒸気で直接タービンを回す沸騰水型と炉心温度320度程度で加圧した一次冷却水を液体のまま蒸気発生器に送って一次冷却水とは別経路の二次冷却水を水蒸気に変え、その水蒸気でタービンを回す加圧水型の2つに分類することが出来ます。沸騰水型では、炉心上部に水と水蒸気を分離する気水分離機のが不可欠である関係上、構造の複雑化を避けるため制御棒を下から押し上げて出し入れする方式が採用されているのに対し、加圧水型では原理的に気水分離機が必要ないため緊急時に重力落下によって確実に反応を停止させることのできる吊り下げ方式を採用されています。原理的に吊り下げ式の制御棒の方が安全性が高いと評価されているため、東日本大震災以後に再稼働した原発の大部分は加圧水型となっています。

このように原子力潜水艦や原子力空母といった船舶や日本国内の原子力発電所に広く普及している軽水炉ですが、黒鉛炉に比べて狭い範囲で大量のエネルギーが発生するため非常時の危険性が高いことと、軽水が減速材と冷却材の両方を兼ねている関係で負荷追従運転を行うには制御棒を挿入して貴重な熱中性子を吸収させるしかないことといった欠点を抱えています。

非常時における危険性が高いことは原子炉のサイズを小さくできる利点と表裏一体であり、原子力潜水艦や原子力空母の軽水炉が非常事態を起こした際には大量の海水によって水没させる対処が基本方針となっています。

軽水炉は黒鉛炉のように炉心の温度を一定に保ったまま熱出力を調整することが出来ないため、時間ごとに細かく変動する電気需要に対応することが出来ません。制御棒のみで出力を制御しようとすると、貴重な熱中性子の損失が増えてしまい、燃料の短寿命化に繋がってしまいます。制御棒の使用は最低限度に留めたいのです。そのため民生用軽水炉では炉心温度と出力を一定に保ったままの運転しか行われておらず、変動する需要分の電力は火力発電や水力発電などによって対応しています。

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ウラン235原子炉の現状について

原子炉の運転を続けると、燃料棒の中にウラン235が2個に割れた核分裂生成核が溜まってきます。この原子核は一般に中性子を吸収する確率が高い傾向があります。そして現在日本国内の原子力発電で主流となっている軽水炉は減速材および冷却剤の役割を果たす水素1が中性子を吸収して水素2(重水素)を作る反応も起きるため、中性子の損失が大きくなるという欠点があります。燃料棒は使い続けると燃料棒の中に中性子を吸収しやすい原子核が増え続け、中性子の余裕な少なくなって反応が止まってしまうのです。軽水炉は燃料棒の中に核分裂生成核種が少し溜まると、燃料棒を交換しなければなりません。この少し使った燃料棒は核分裂生成核種を取り除いてやればまだまだ使用できるものの、日本政府と電力会社は燃料棒から核分裂生成核種を除去する再処理施設を全く開発せずに、当初はイギリスやフランスに委託していました。ですが両国の都合でやがてこれが行われなくなり、少し使っただけの燃料棒を発電所内の貯蔵施設に保管されるだけとなりました。試験目的で茨城県東海村に再処理工場(東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所)が建設されましたけれども、日本全国の燃料棒を処理するのには能力不足でした。1993年になってようやく本格的な再処理工場を青森県の六ヶ所村に建設し始めましたが、度重なる延期の末、2025年現在いまだに稼働に至っていません。口さがない人たちが昔から原発のことを「トイレのない高級マンション」だと揶揄することがあります。ほぼ全ての原発で使用済み燃料棒の貯蔵施設は満杯であり、このまま使用済み核燃料が増え続けてしまえば、近い将来原発が動かせなくなる事態に陥ってしまいます。

軽水炉を動かすことによっても黒鉛炉と同様に燃料棒の中でプルトニウム239を生成できますが、その量は使ったウラン235の10%程度に留まります。軽水炉の使用済み燃料棒の中には放射線強度の高い核分裂生成核種が多量に含まれているため、プルトニウム239を取り出す際に被曝する危険性が高いです。黒鉛炉は使ったウラン235の50%以上のプルトニウム239が生まれる上に、原子炉中心部の燃料棒は中性子生産に特化し周辺部の劣化ウラン棒はポルトニウム239生産に特化しています。劣化ウラン棒からプルトニウム239を精製する際の被曝は軽水炉よりはるかに少なくて済みます。どこかの政治家が北朝鮮政府に黒鉛炉をやめたら軽水炉を贈与すると提案していましたが、原爆の欲しい北朝鮮政府がこんな提案に賛成するはずがありません。

東芝はアメリカ最大の原子力会社ウェスティングハウスを吸収合併しましたが、1979年のスリーマイル原発事故以降アメリカ政府の原発安全基準が厳しくなりました。ウェスティングハウスは膨大な赤字を抱えており、東芝本体まで経営危機に陥りました。ウェスティングハウスの株を含む他の事業を全て売却し、今や東芝は原子炉の製造と点検を行う専業会社になってしまっています。それでも日本政府は東芝の支援を続けました。アメリカ海軍の空母や潜水艦用原子炉の製作や定期点検を行える会社は世界的にも東芝だけなのかもしれません。

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