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ラドンの危険性を無視する日本! 国際社会におけるラドン対策

国際社会では重要視されているラドン対策

国連の中にはUnited Nations Scientific Committee on the Effect of Atomic Radiation(放射線の影響に関する国連科学委員会)という組織があり、世界中の約200人の科学者で構成され、適宜報告を発表しています。国連加盟国はこのUNSCEARの報告を尊重する義務があり、例えば1990年の報告に基づいて、日本の放射線障害防止法では一般人の医療放射線を除く人工放射線の被曝限度や原子力発電所などの放射線を発生する可能性のある施設の境界での被曝限度を年間1mSvに、放射線科の医師や放射線技師などの放射線業務従事者の被曝限度や福島第一原発周辺の帰宅困難地域など立ち入り禁止地域に指定する基準を年間20mSvとしています。

UNSCEARは2006年と2008年にある報告を発表しました。2006年報告では世界中のラドン濃度の測定値を羅列し、そして2008年報告では以下3点を指摘しました。

・ラドンの密度は空気よりもずっと大きいので、地下空洞(例えば鉱山)に高濃度で凝縮し、太古から1950年代まで世界中の全ての鉱山で肺がんが多発していた原因は、坑道内に高濃度で存在したラドンの吸入摂取であること。

・野外のラドン濃度の世界平均値は空気1ℓあたり1万原子(20~30Bq/m3)であり、1950年代の多くの鉱山でのラドン濃度と肺がん死亡率の関係を外挿して、野外ラドン濃度と同じ値で暮らす人は1年間で1.2mSv被曝すると予想。この値は人口1億人あたり年間6,000人が肺がんで死亡していると推定されること。

・気密性の高い建物内ではラドン濃度がほぼ0の場所と外界より10倍以上濃い場所が併在すること。

参照:
放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
「UNSCEAR 2006 REPORT VOLUME I」
「UNSCEAR 2008 REPORT VOLUME I」

UNSCEAR2008ではエアコン使用を前提とした気密性の高い新築の建物で1日の大部分を座ったり寝転んだりして暮らしていると年間被曝量は10mSvだとしました。一方、建物全体が1個の密室となっているような高層建築物では高層階のラドンは廊下や階段を通って下の階へ落ちて行くので、1日の大部分を高層階で過ごしている住民の被曝は0.2mSvとしています。

この報告を受けてWorld Health Organization(国連世界保険機構)では2009年9月に室内のラドンガス濃度が100Bq/m3(外界のおよそ4.5倍)を超える場所がある建物はすぐに対策を取るように各国政府に勧告しました。この値での年間被曝量は約5mSvです。そしてこの100Bq/m3がすぐに実現できない国は300Bq/m3以下で出来るだけ低い暫定規制値を設定するように各国に求めています。

参照:
WHO handbook on indoor radon: a public health perspective
WHO 屋内ラドンハンドブック(日本語訳・PDFファイル)

米国ではEnvironmental Protection Agency(EPA:米国環境保護庁)が2006年から建築業者を集めてラドン濃度の測定方法と室内ラドン濃度を下げる対策工事例の講習会を開催しており、受講業者はラドン対策の可能な業者として各州の保健局のホームページで公開されています。最近では2020年1月にPrevent Lung Cancer: Test Your Home for Radonという呼びかけを全国民に出しており、毎年1月をNational Radon Action Month(国民ラドン対策月間)として自宅のラドン濃度を測定し、外界の3~6倍ならば対策工事を検討し、6倍以上ならすぐに対策をとるように訴えています。EPAのホームページには様々なラドン対策工事例が紹介されています。DIYのお店で材料だけを購入して工事は自分で行うものから、空調方法を本格的に改造するものまでありますが、平均工事費は1,000ドル程度だそうです。

また英国ではPubulic Health England (イングランド公衆衛生局・現英国保険安全保障庁:UK Health Security Agency)がUK National Radon Action Planを発表し、米国と同様の対策を行っております。英国では住宅だけでなく、勤務先のラドン濃度測定も呼びかけております。

参照:
米国環境保護庁
Prevent Lung Cancer by Testing your Home for Radon, EPA Recommends
EPA Encourages Home Testing During National Radon Action Month
イングランド公衆衛生局(現英国保険安全保障庁)
UK National Radon Action Plan

ラドンに対して無策な日本。ラドン対策に必要なことは?

国連加盟国としては必然ですが、日本国はUNSCEAR2008を尊重する政策を実施しなければなりません。

具体的に対応策を並べれば、

1.全ての新築建造物の完成検査でラドン濃度測定を行う。

2.全ての既存建造物で毎年ラドン濃度測定を行うよう呼びかける。

3.上記の測定でラドン濃度が100Bq/m3か外気の5倍以上の場合、空調の改修を命じる。

別ページでも述べていますが、日本ではUNSCEAR2008についてはほぼ全ての放射線の専門家が誤解していました。それが肺がん対策の遅れにつながった一因と言えます。

クーラー普及前は誰も予想できなかったことですが、エアコンが普及すると室内の気密性が向上し重いラドンガスは室内下部に濃縮する、その濃度は帰宅困難地域の基準の50%にも達するというのがUNSCEAR2008の主張です。ラドン濃度を測定し、もし危険レベルなら空調を改良・増強することを推奨します。我々が考える改造はDIYの店で材料を買って自分で作業するレベルから、建築の専門家に依頼しても数十万円程度の費用で賄えるものまであります。EPAの声明でも典型的なラドン対策費用は1000ドルと書かれています。

クーラー普及前の1970年の肺がん死者数は年間約10,000人でした。それが現在は約80,000人に急増しました。1970年のラドンが原因の肺がん死者数は6,000人と推定できます。がんは進行が遅い病気です。最初のがん細胞が発生してから死に至るまで平均20年はかかります。タバコが原因の肺がん死者数はその年より20年前のタバコの売上に比例するとしたら、1950年に比べて2000年のタバコの売上は約3倍なので、今タバコが原因の肺がん死者は年間12,000人程度でしょう。すなわち現在ラドンが原因の肺がん死者数は70,000人弱です。もし室内のラドン濃度が外界と同じなら年間7,000人で済みます。米国ではEPAによるとラドンによって年間の肺がん死者数は2.1万人だそうです。現在の人口は日本がおよそ1.2億人、アメリカがおよそ3.3億人であるため、一定人口当たりのラドンによる肺がん死者数は日本が米国の10倍となります。

最近の15年間にアメリカでは有効な対策が行われ日本では無策であったことの結果として、2040年ころのラドンによる肺がん死者数の人口比は今よりずっと大きくなり日米間の格差が20~50倍になることを覚悟しなければなりません。いますぐ効果的なラドン対策を始めても目に見える成果が出るのは2040年以降でしょう。でもやらないわけにはいけません。

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