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核分裂反応を利用した大量破壊兵器
原爆こと原子爆弾はウラン235やプルトニウム239が引き起こす核分裂反応のエネルギーを爆発エネルギーとして使用する兵器のことであり、同じ重さの通常火薬を使用した爆弾と比較して数百万倍の威力を発揮する大量破壊兵器として位置づけられています。
このページでは原爆の基本的な原理を踏まえた上で、原爆の構造の違いや燃料による違いを解説します。
原子炉と異なり連鎖反応の制御を必要としない「原爆」
核分裂反応のページで解説した通り、原爆の材料や原子炉の燃料として使用できるウラン235やプルトニウム239やウラン233は核分裂性物質と呼ばれており、単純に燃料と呼ばれることもあります。
原爆の燃料となる核分裂物質は中性子またはγ線を吸収すると誘導核分裂を引き起こして平均2.5個の中性子を放出し、この時に放出された中性子が別の核分裂物質に吸収されると連鎖的に核分裂が継続します。この核分裂が継続することを核分裂の連鎖反応と言うのですが、核分裂物質の塊の大きさが一定よりも小さすぎると中性子が外に飛び出してしまって連鎖反応が継続できなくなり、逆に一定よりも大きくなると中性子が塊の中に留まって全て放出量と吸収量が釣り合って連鎖反応が継続できるようになります。
この核分裂の連鎖反応が継続する状態のことを臨界状態と言い、臨界状態になる核分裂物質の量のことを臨界量と呼びます。原爆ではこの臨界量を大幅に超えた量の核分裂物質を起爆させたい瞬間に用意し、核分裂反応を繰り返すごとに放出される中性子の数が指数関数的に増加する状況を作りだすことにより、連鎖反応を一気に進行させて瞬間的な爆発エネルギーを生み出します。
そのため原爆は核分裂の連鎖反応を常に制御しなければならない原子炉とは異なり、冷却材や制御棒の必要もなければ減速材もありません。臨界量以下に分割した核分裂性物質の塊を瞬間的に1か所に集めて臨界状態にし、そこに適切なタイミングで中性子を発生させて爆発を引き起こすという原子炉に比べれば単純な原理で動いています。
日本人ならばまず思い浮かべる広島型原爆も長崎型原爆も使われている燃料や構造こそ違いますが、基本的な原理の部分はそれぞれ全く同じであると言えます。
起爆時に適切なタイミングで中性子を発生させる方法
原爆は構造的な観点から広島型原爆のガンバレル型(砲身型)と長崎型原爆のインプロ―ジョン型(爆縮型)の2種類に分けることが出来ますが、ここでは先に原爆を適切なタイミングで爆発させるために必要な中性子を発生させる方法について触れます。
先ほど述べたようにウラン235やプルトニウム239などの核分裂物質は臨界状態に達していれば、天然由来の中性子やγ線がそれらの原子核に当たるだけでも核分裂が引き起こされます。しかし天然由来の中性子やγ線はμ粒子など他の宇宙放射線などに比べて頻度が少なく、またいつやってくるかも分かりません。そのままの状態では原爆を兵器として起爆させたいタイミングで起爆させることができず、想定よりも小規模な爆発で終わってしまうことや最悪不発となっしまうことが考えられます。
このことから実用化された原爆では起爆させたいタイミングで中性子を発生させるイニシエーターと呼ばれる起爆用中性子源が組み込まれています。

上の図は代表的な起爆用中性子源の構造です。
起爆用中性子源の中心には球形上に固められたポロニウム210(おそらく芯材の表面をポロニウム210で覆ったもの)が配置されており、その周りを厚さ50㎛ほどのアルミニウム箔が隙間なく覆っていて、さらに外側の表面をベリリウム9で覆ている構造をしています。
ポロニウム210は半減期138日でα崩壊を起こしてα線を出すことで知られており、アルミニウム箔はこのα線を外へ出さない役割を果たしています。これによりポロニウム210から出るα線が外側のベリリウム9に通常時は当たらないような構造となっています。α線の透過力は非常に低く、50㎛の厚さのアルミニウム箔でもほぼ完璧に遮蔽することができます。
原爆を起爆させます。
詳しい構造はこのあと述べますが、原爆は核分裂物質を臨界状態にする時にTNT火薬など通常火薬を用いて原爆内部を高温高圧にさせます。
すると融点の低いアルミニウム箔は高温高圧下ですぐさま蒸発または破壊され、ポロニウム210とベリリウム9を遮る「壁」が消失することになります。
ポロニウム210から飛び出したα線(中性子数2陽子数2)がベリリウム9原子核(中性子数5陽子数4)に吸収されると
ベリリウム9 + α線(ヘリウム4) ⇒ 炭素12 + 中性子1個
という反応を起こして非常に安定している炭素12原子核(中性子数6陽子数6)に変わり、余った中性子1個が飛び出してきます。この時飛び出してくる中性子が原爆における核分裂の連鎖反応の引き金になります。
また、このような中性子の発生方法は一般的に出回っている中性子線源と同じであり、α線源としてポロニウム210の代わりにラジウム226やアメリシウム241を用いてベリリウム9と混ぜたものが市販されています。
原爆に適した燃料と適さない燃料

核分裂反応や原子炉の解説でも解説してきましたが、核分裂の連鎖反応を行うことができ、なおかつ人類が十分な量を確保できる核分裂物質としてウラン235とプルトニウム239、そしてウラン233が挙げてきました。
ここではそれぞれの核分裂物質の長所や短所を紹介しつつ、それらが果たして原爆の燃料として適しているか、それとも適していないかについて述べていきます。
ウラン235
ウラン235は生成に原子炉を必要とせず天然ウランを遠心分離機などを使用して濃縮(ウラン235の含有率を高めること)することによって燃料として活用できるようになります。
そのため製造工程が原子炉の燃料棒を作る工程と基本的に同じで外部に露見しにくく、構造が単純で製造技術難易度が低いガンバレル型(このあと解説)に使用できるという長所があることから、原爆を秘密裏に製造したい勢力にとっては軍事的に一定のメリットがあると言えます。
しかしその反面、天然ウランに含まれているウラン235の含有率は0.7%程度しかなく、天然ウランからウラン235を高純度に取り出すウラン濃縮工程には多大なコストが掛かるという現実も突き付けられました。
通常の原子炉ではウラン235の割合が3〜5%の低濃縮ウラン、高速増殖炉ではウラン235の割合が18%前後の高濃縮ウランを使いますが、ウラン原爆ではウラン235の割合を最低でも80%以上、高度な兵器として使用するためには99%以上の濃縮率が要求されました。
ウラン濃縮はウラン238とウラン235の質量差に利用し、気化させたウランを遠心分離機で高速回転させて比較的重めなウラン238を外側へ、比較的軽いウラン235を中心に偏らせることによって分離していきます。ウラン単体では安定的に気化させるのに3,800℃の高温が必要なに対し、ウランをフッ素と反応させて6フッ化ウラン(UF6)の状態にすればたった56.5℃で昇華するという性質がありました。ウラン濃縮ではこの6フッ化ウランの性質に着目し、気化した6フッ化ウランを遠心分離機に入れて運転すると、天然にはフッ素の同位体がフッ素19の1種類しか存在しないこと、すなわち6フッ化ウランの質量の違いはウランの質量数の違いに由来することから、周辺部には重いウラン238が高濃度に存在する劣化ウランが、中心部には軽いウラン235が高濃度に存在する濃縮ウランが生まれます。
このことが原因でウラン235を用いた原爆は燃料調達に莫大なコストが必要であり、実際に使用されたものは広島に投下されたリトルボーイのみに留まっています。
プルトニウム239
プルトニウム239はウラン235とは異なり天然にはほとんど存在しない(わずかに存在しているという報告もあるが、燃料として使用するには完全に不十分)ため、下の図のように原子炉の中で天然ウランの99.3%を占めるウラン238に中性子を吸収させその後β崩壊を2回行わせる形で人工的に生成されます。

プルトニウム239の生成には原子炉という大掛かりな装置が必要であり、燃料としての取り扱いがウラン235よりも難しく原爆が構造的に複雑にせざるを得ないという欠点(詳しくはこのあとのインプロ―ジョン型原爆で解説)があるものの、材料となるウラン238がウラン235よりも桁違いに多く濃縮の必要もないため、燃料調達コストを抑えられるという軍事的なメリットがあります。
このことからプルトニウム239を使用した原爆は長崎に投下されたファットマンを始めてとして現在までに推定10万発以上作られることになりました。
ウラン235に比べて取り扱いが難しく原爆の構造を複雑化せざるを得ないという欠点も見方を変えれば、製造技術的な問題で核拡散しにくいという政治的なメリットになると言えるかもしれません。
ウラン233
ウラン233は原爆開発の早い段階で「軍事的には使えない」という評価が下されました。
ウラン233についてはトリウム炉のページでも詳しく解説していますが、ウラン233そのものはプルトニウム239と同様に自然界に存在せず、下の図のように原子炉の中でトリウム232に中性子を中性子を吸収させてからβ崩壊を2回行わせる形で人工的に生成されます。

ウラン233最大のメリットは材料となるトリウム232はこの地球上に天然ウランの4倍以上存在しており、主に海水中に溶け込んでいることから、天然ウランよりもはるかに採掘コストが低いという点です。これは燃料として理想的な長所と言えます。
しかしウラン233には兵器として運用するには見逃せない問題がありました。
ウラン233を生成する時、およそ1%の割合でウラン232という同位体が同時に生成されてしまいます。
このウラン232は半減期68.9年で崩壊し、その後の崩壊過程で発生するタリウム208が強烈なγ線を発生させてしまうことから、ウラン233を使用した原爆を製造したり運用したりしようとすると現場の技術者や原爆を運搬する兵士たちに多大な被爆をもたらしてしまうのです。分厚い鉛の壁を使用すればγ線を遮蔽することは出来ますが、このようなものを用意すれば爆撃機はおろか船舶でさえ重くなり過ぎて飛び立てなかったりまともな航行を行うことが出来ずに沈んでしまうでしょう。
扱うにはあまりに危険すぎて、対策を行うとすると小型化は不可能でまともに運用できないという致命的な欠陥兵器の誕生です。
そのためウラン233を使用した原爆は現代にいたるまで実用化されたことはありません。
軍事的には極めて大きいデメリットがある反面、トリウム炉のようにいくらでも大型化が可能な原子炉施設ではγ線対策は容易であり、核分裂生成物も軍事利用しにくいという点を考えても「最も原子力を最も平和的に利用できる燃料である」とも言えます。
広島型原爆と長崎型原爆の構造の違い
最後に原爆の構造についてお話します。
原爆は主に広島に投下されたガンバレル型(砲身型)と長崎に投下されたインプロ―ジョン型(爆縮型)の2種類が存在します。

それぞれ通常火薬の爆発によって核分裂物質を臨界状態にして核分裂爆発を引き起こすという点では共通していますが、使用できる燃料の種類や構造が全く異なるものになっています。
ガンバレル型(広島型・砲身型)原爆

ガンバレル型(砲身型)原爆は「臨界状態に至っていない核分裂物質の塊(半球)を2つ用意しておき、その2つをTNT火薬の爆発などによって衝突させ、臨界状態にする」という極めて単純な構造をしています。
2つの核分裂物質を衝突させるのには必ずしも火薬による爆発である必要はなく、機械的な仕掛けや極端な話人力(実行した人は確実に死亡するでしょうが)でも可能です。
このようにガンバレル型原爆は爆弾としての構造が単純で製造技術難易度が低いという長所がありましたが、前述のようにウラン235は調達コストが非常に高いことや小型化が難しいこと、そして装置が破損した時に暴発の危険性が高いという懸念がありました。
またプルトニウム239に関しては後述する問題点を払拭できなかったため「ガンバレル型プルトニウム239原爆」が実用化させることはありませんでした。
これらの事情からガンバレル型原爆は広島に投下されたリトルボーイ1発に留まっており、次のインプロ―ジョン型原爆の開発成功によって姿を消してしまいました。
インプロ―ジョン型(長崎型・爆縮型)原爆

インプロ―ジョン型(爆縮型)原爆は「小さく小分けにしたプルトニウムの塊を球殻状(球形かつ中空)に配置して、それを取り囲むように配置した火薬の爆発エネルギーによって圧縮し、臨界状態にする」というガンバレル型に比べてとても複雑な構造をしています。
なぜわざわざこのような複雑な構造にしたかと言えば、それにがプルトニウム239が抱える1つの問題が関わっていました。
原子炉でプルトニウム239を製造しようとした時にウラン238が中性子2個吸収するか、プルトニウム239が中性子を吸収した時におよそ30%の確率で核分裂を起こさずにプルトニウム240になることがあります。
このプルトニウム240はプロトニウム239の核分裂連鎖反応を考える上で非常に厄介な存在であり、そのまま放置していても自発的に核分裂を起こすかさらに中性子を吸収してプルトニウム241に変わってしまいます。
そのため臨界状態で核分裂させたいプルトニウム239を未臨界まま核分裂(もちろん連鎖反応は起きない)させて燃料を劣化させてしまうか、本来であればプルトニウム239の核分裂で使いたい中性子を無駄に消費させてしまいます。
このことから核分裂物質の塊が大きくなりがちなガンバレル型原爆でプルトニウム239を使用すると、燃料が見る見るうちに劣化してしまい、いざ起爆させた時に爆発が想定よりも小規模で終わってしまうか最悪不発となってしまう事態が発生してしまいました。これを「不完全核爆発」や「未熟核爆発」と言います。こうしてガンバレル型プルトニウム239原爆の開発は失敗したのです。
不完全核爆発への対策としてプルトニウム239の塊の1つ1つをできるだけ小さくし、それらを起爆時に1カ所へ集まるために火薬の爆発エネルギーを内側へ集中させて圧縮するインプロ―ジョン型が発案され実用化されました。
原爆の中心には起爆用中性子源であるイニシエーターが、そこから少し距離において中空の球殻状にプルトニウム239の小さなカケラを配置し、その周りをタンパーと呼ばれる劣化ウラン性の球殻で覆っています、このタンパーの役割は「外側の火薬の爆発エネルギーを受け止めて中のプルトニウム239を均一に圧縮すること」そして「核分裂が始まった時に中から飛び出してくる中性子を反射させて効率よく中性子を活用させること」です。
タンパーの外側に配置されている火薬(上の図では2次元的に8つ配置されているが、実際は3次元の正二十面体状に配置されている)にも工夫が為されています。原爆の外側から単に火薬を起爆させただけではその燃焼は起爆点から扇状に広がってしまい、中のタンパーを圧縮するときに圧縮する時にムラが生じて均一に圧縮することが出来なくなります。そのためインプロ―ジョン型原爆で使用される起爆用の通常火薬は「燃焼が速い火薬(速燃性火薬)」と「燃焼が遅い火薬(遅燃性火薬)」を組み合わせて火薬の燃焼がタンパーの外側に向かって均一に進むようになっています。これを爆縮レンズと言います。
このようにインプロ―ジョン型原爆は起爆時に爆縮レンズによる爆発を受け止めたタンパーごと中のプルトニウム239を圧縮させて1か所に集め、臨界状態に至らしめるという仕組みになっています。
第二次大戦で行われた原爆の性能比較“実験”
第二次大戦時において、ガンバレル型原爆とインプロ―ジョン型原爆の開発に成功したアメリカ軍は日本が降伏する前に原爆の効果を実測したいという思惑がありました。
そして1945年8月6日にリトルボーイと名付けられたガンバレル型ウラン235爆弾が広島に投下され、同年8月9日にファットマンと名付けられたインプロ―ジョン型プルトニウム239爆弾が当初小倉に落とすつもりだった予定を当日の天気が曇りだったのを理由に第二目標の長崎に変更して投下しました。
広島と長崎の2つの原爆の効果を精密に計測し、他の核実験とも照らし合わせた結果、ウラン原爆とプルトニウム原爆において材料の違いで威力に差がほぼ無いこと、ガンバレル型はインプロ―ジョン型に比べて核物質の量に対して威力が低いことや搭載機の墜落によって暴発する可能性があること、などが判明しました。
以上のことから、第二次大戦後の世界の歴史において最盛期には10万発の原爆が存在していたと言われていますが、その全てがプルトニウム原爆であり、全てがインプロ―ジョン型だったと記録されています。
2026年現在、昨今のニュースで話題となっているイランでは原爆を独力で開発していると言われています。
プルトニウム原爆を作るには黒鉛炉が必要なのはこれまでにも語ってきましたが、黒鉛炉は軽水炉の1,000倍の体積になるという特徴もがあるため、地下深くに秘密裏に建設するのは困難であり、動かせばすぐさま外部から発覚してしまいます。加えて敵国から原子炉を攻撃されると放射性物質が広範囲に拡散するなどして被害が甚大となる危険性もあります。
そこで費用はかかっても広島型のウラン原爆を作ることにしたようです。ウランの濃縮は既存の軽水炉燃料用の低濃縮ウラン製造施設を拡大すれば達成できるため、密かに地下深くに巨大なウラン濃縮施設を建設し、まずは核分裂の連鎖反応が起きる最低限の濃縮率であるウラン235の割合80%を目標にしているようです。
2025年6月のイスラエルやアメリカによる空爆でウラン濃縮施設は攻撃されましたが、どれだけの被害があったかは今のところ判明していません。しかし一般人への被害は極めて限定的だったのは間違いありません。これがもし黒鉛炉によるプルトニウム生産の場合であり、空爆によって破壊されていたとしたら、中東地域は深刻な放射線被害に見舞われていたことでしょう。
そしてこのことが2026年2月28日より始まったアメリカ・イスラエル両軍によるイラン攻撃(ホルムズ海峡封鎖も含む)の原因の1つであると言われています。


