広島と長崎の原爆投下後に生き残った人に対して日本政府は放射線影響研究所を通じて一人ひとりの被曝量を推定しました。そして1985年まで健康調査を継続し、1991年に国際学術組織である「国際放射線防護委員会(ICRP)」に「被曝量と発がん率の増加分は比例する。1シーベルトの被曝で発がん率は10%増加する」と報告し、了承されました。この30万人以上の被爆者を対象とした健康調査報告によって、ホルミシス効果は完全に否定されています。
現在世界の全ての国で被曝量と健康被害が比例することを前提に放射線防護対策が採用されており、これをLNT(しきい値なし直線)仮説と言います。いまだに一部の科学者がこれに異を唱えていますが、現時点では科学的な根拠が乏しいと言わざるを得ません。
それにもし本当にホルミシス効果が実在するのであれば核兵器を使いたい軍隊にとって好都合であることから、核保有国の軍上層部が主導となって大々的に発表するはずです。核兵器の攻撃目標だった場所において敵国軍隊が壊滅してもその周辺地域の民間人には健康を良くする効果があるなら、核兵器使用に対する人道的非難は小さくなります。また核兵器の攻撃目標の中には地理学的に重要な地点でそこを占領することはその後の軍事行動が有利になるという側面もあります。軍隊幹部は原爆投下直後に出来るだけ早くそこを占領したいと考えるでしょうが、一般兵士は嫌がります。この場合もホルミシス効果は兵士の説得に有効です。アメリカ軍がホルミシス効果を研究したことは常識ですが、ホルミシス効果を肯定する証拠は全く発表されていません。そういう意味では良心的と言えます。
参照:
国際放射線防護委員会(ICRP)
ICRP Publication 60