放射線が生物の細胞に衝突または通過したとき、その内部にあるDNAを傷つけることがあります。放射線によるDNAの傷付き方は、放射線がDNAを構成する原子に直接電離させて結合を切ってしまう直接作用と、DNAの周辺に存在する水分子を電離させ、その電離した水分子(フリーラジカル)によってDNAが間接的に傷付く間接作用の2種類が存在します。
α線や重粒子線、中性子線などの放射線は生物作用のおよそ6~8割が直接作用であり、また間接作用であっても短い距離にたくさんのエネルギーを落とすため、DNAの2重らせんの両方を切ったり(2本鎖切断)、修復しにくい複雑な損傷を起こしやすく、放射線以外の要因の影響を受けにくいという特徴があります。
逆にX線やγ線、β線、陽子線などの放射線は間接作用が6~8割を占め、α線などと比較すると短い距離にあまりエネルギーを落とさないため、影響のほとんどが修復しやすい1本鎖切断であり、2本鎖切断や複雑な損傷を引き起こす確率が低く、その確率も放射線以外の要因の影響を受けて上下しやすいという特徴があります。
放射線による被曝は、放射線の本数・エネルギー・種類・被曝する臓器などによって大きく変わります。特にα線は他のβ線やγ線と比較して、エネルギーの大きさや本数が同じであっても20倍の発がん能力があります。
ここではα線の代表としてラドン222が出すα線、β線とγ線の代表として福島第一原発事故でよく知られるようになったセシウム137、そして宇宙線を比較してみます。(セシウム137はβ線を出してバリウム137の励起状態となり、直後にγ線を出してバリウム137の安定状態になります。)α線は生体内で50μm程度しか飛びません。β線も数mmです。γ線と宇宙線は生体を貫通します。このため放射性物質が体外にある場合と放射性物質が体内にある場合では被曝の状況が全く異なります。γ線による被曝量を1とした時の値と比べた相対被曝量は、放射性物質を体外に置いた状態ではα線は0、β線は0.01、宇宙線は20程度ですが、放射性物質を肺に取り込んだ状況ではα線は2,000、β線は10程度となり、胃や腸の中に入った場合は、放射性核種が単独で存在しているか食品表面に付着していると肺と同様な被曝量であり、食品や水滴の内部に入っている場合はα線で0.1、β線で1程度となります。すなわちα線放出核種が裸で単独に体内に入る場合が最も危険です。
・放射線によってDNAが直接傷付く直接作用と水分子を介して傷付く間接作用の2種類の傷付き方をする。
・α線や重粒子線、中性子線などの放射線はDNAに修復しにくい損傷(2本鎖切断)を引き起こしやすい。
・細胞にはDNAの修復機能があるが、2本鎖切断などによってこの修復が不完全に行われると勝手に増殖するがん細胞が生まれる。
・日常における体内被曝では、α線を出す放射性物質が単独で体内に存在している状態が最も危険!