国連の中には「放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR: United Nation Scientific Committee for the Effects of the Atomic Radiation)」という組織があります。世界中から200人余りの放射線の専門家が集まって、人間の健康における放射線の影響について新しい発見などがあれば世界中の政府に報告する役割を持っています。
UNSCEARは2008年にある重要な発表を行いました。1970年代から先進国で肺がん死者が増加し、2000年代までの約30年間で1.5〜2倍(日本では約3倍)になったことを受け、世界中の科学者による調査・研究を基に「エアコンが普及して建物の気密性が高まると、部屋の底部に空気より重いラドンが蓄積しやすくなり、肺がんが増える」という報告を発表したのです。
太古から1950年代まで世界中の鉱山で肺がんが多発していましたが、その当時まで原因不明でした。50年代に放射線検出器が鉱山内部に持ち込めるようになると、α線を放出する不活性ガスであるラドンの濃度が地上の100倍以上であることがわかりました。地球上におけるラドンは主に外核やマントル内のウランから発生しており、それが断層の隙間やマグマの通り道から地表に出て来ます。そのため坑道内は高濃度のラドンで冗漫しており、強力な送風機で新鮮な空気を坑道内部に送ると、ラドン濃度は下がり、やがて鉱山労働者の肺がん発生率も一般人と同程度になりました。これによって肺がんの主因は呼吸で肺に入ったラドンが出すα線と確定しました。
翌2009年にWHOはUNSCEAR報告を承認し、各国政府に向けて「全ての気密区画のラドン濃度を測定し、それが外界の世界平均のおよそ4倍を超えたら換気の改良を推奨し、12倍を超えたら換気改良工事を義務付けるように」と勧告しました。
日本以外のエアコンが普及している国は国連科学委員会報告とWHO勧告に従って、それぞれの国によって優先度や予算によって順番がありものの、基本的には人の立ち入る全ての部屋のラドン濃度を測定しています。
しかし日本では放射線に強い不安を抱く人が多くいるにもかかわらず、ラドンの危険性や対策が周知されませんでした。主要国の中で日本政府だけがUNSCEARの報告やWHOの勧告を「該当しない」と判断し、何の対策を取らず、国民へを周知する努力も怠ってしまったのです。